バイオフィードバック機器がどのように働くかについて、謎めいた神秘的なところはありません。バイオフィードバック機器は、心と体の情報交換に過ぎないのです。通常は意識の外にある、血圧、心拍、その他の生理的プロセスに影響を与えるものを測る裏口のようなものです。
鏡の前で様々な表情をしてみるもの、ある意味、バイオフィードバックのひとつの形です。体温によって色が変わる「気分の指輪」もそうです。
「自転車に乗ることを覚えることも、バイオフィードバックの別の形といえます。初心者は、バランスを取るために、目、筋肉、耳などからの情報のフィードバックに注意を向けなければなりません」
ワシントン大学カウンセリングセンターのモーリス・ワーナーはこう語ります。同センターでは、不安やストレスを抱える学生が、自由にハートマスのエムウェーブソフトウェアを使えるようになっています。
「医学領域においては様々な種類のバイオフィードバック機器がありますが、一般消費者向けになっているのはストレス軽減に焦点が置かれています。それらは十分な裏づけのある測定技術を使っていて、心拍リズムを有益に変化させるためにゆっくりとした呼吸を推奨します。その呼吸は、自律神経系を安定させることにつながるのです」
「瞑想やヨガも、神経系を落ち着かせ、ストレス解消につながる作用がありますが、瞑想は非常に長い学習曲線を描き、大半の人は習得できずに途中で脱落してしまいます。エムウェーブのようなバイオフィードバックを使えば、もっとずっと簡単なのです」
「とはいえ、バイオフィードバック機器も万能ではありません。ユーザーがきちんと動機づけされていないと、定期的に練習しないからです」
「私たちは、本当に必要なときにだけバイオフィードバックを使うといった傾向があります。そうでないときには、自分を制御するといったことを忘れてしまうのです。使うか失うかのどちらかなのです」
継続的に使えさえすれば、結果は約束されています。ワシントン大学の養子クリニックでは、養子として受け入れられた子供たちに、「野生の王国への旅」というバイオフォードバックソフトウェアを使っています。海外の養護施設で何ヶ月もネグレクトされたあとに養子となった子供たちにとっては、そのソフトウェアが、感情の制御を学ぶ楽しい方法を提供してくれるからです。
その養子クリニックの共同責任者であるジュリアン・デイビーズ博士によると、ネグレクトは、「反応の柔軟性」を促進すると考えられている右前頭葉の発達をしばしば阻害します。ネグレクト環境下で育った子供たちには、フラストレーションに対して反射的で稚拙な反応を示すことが多く、それは自分自身の感情を認識し、適切に反応することが彼らにとっては難しいからだとしています。
デイビーズは、それを「低位の道(*2)」と呼んでいます。というのは、その反射的な反応は、「戦うか逃げるか」反応に基づいた神経回路を使うからです。
「野生の王国への旅」というゲームは、2004年に発売され、その報酬は「穏やかさ」です。7-8歳の子供たちでも楽しめるものです。
そのゲームで子供たちが達成するやり方は、ジョイスティックによってではありません。自律神経系を活性化したり、緩和したりすることを学ぶことによってなのです。
デイビーズは、患者支援につながる一般向けバイオフィードバック製品を調べましたが、それは彼自身の生活も変えたのでした。彼は今、「ストレスエレーザー」という製品を持ち運び、定期的に使っています。
「気持ちが押し流されそうになったり、より多くのストレスを感じたりし始めたときに、それを使うことによって、より敏感になったと思います」
それは、彼の妻であるキムにとっても好ましいことでした。そう、東海岸のベイビーシャワーに大きな負担を感じていたあのキム・デイビーズです。彼女の夫が家に持ち帰ったバイオフィードバック製品をいくつか試してみて、彼女が気がついたのは、それらが単なる個人的なストレス軽減をもたらしたのではなく、彼らの結婚生活をより穏やかで、新しいレベルに引き上げたことだったのです。
「友人は、私たちがずっと気軽に付き合いやすくなったことに気がついたそうです。私たち夫婦は東海岸出身で、(西海岸の人たちのように)それほどくつろいではいなかったのです」
これこそ、高名なカップルセラピストであるジョン・ゴッドマンが、ハートマスによって開発されたばかりの新しい携帯型バイオフィードバックシステム/エムウェーブで達成しようとしていることなのです。
「エムウェーブは調査研究する価値があると確信しました」とゴットマンは語っています。そして、ハートマスの研究を調査したのです。ゴットマンは、エムウェーブを自分自身、妻、そして10組以上のクライアントに試してみました。
「エムウェーブが、自分自身をより穏やかで、ずっとコントロールできている感覚にさせたことに気がつきました。家族に対してより愛情を向けられるようになりました。いらいらすることが少なくなり、より愛情を注げるようになったのです。同時に、良く眠れるようになりました」
その可能性に興奮したゴットマンは、近いうちに開始する、家庭内暴力を対象とした連邦政府の資金援助による研究調査プログラムで、エムウェーブを試してみようとしています。
ゴットマンは、生物的・感情的レベルで機能するバイオフィードバックは、暴力を振るう人間の「考え方」を変えようとする標準的な心理療法(認知療法)よりも、行動変容へのより直結的なルートにつながるのではないかと考えています。
「多くの怒りはあまりにも早く起こるので、私たちには考える時間がありません。自分の怒りを知る以前に、彼らは怒りの状態にいるのです(*3)」
同じような効用を求めて、多くの専門家が、新しいバイオフィードバック機器が、イラク戦争の退役軍人たちのPTSDを軽減することに役立てないかと模索しています。
しかし、多くの典型的な消費者にとって、つまり多忙で時間のない人たちにとっては、毎日のストレスによる緊張の糸を緩める方法をしるだけでも、十分な成果といえるでしょう。
キム・デイビーズはこう話します。
「忙しい仕事をしているほとんどの人が、ストレスにかかわる問題を抱えていると思います。生活上のストレス、人間関係のストレス、ストレスはいつでもそこにあるのですから」
(*1)
直訳すると「無視」。家族から関心を示されず、無視されてしまっている状態。日本でも問題となっており、ある中学教師の話では、クラスで必ず1-2名はいるとのこと。ネグレクトされた子供たちは、この記事で説明されたような理由から、学校内で様々な問題行動を引き起こす傾向があります。
(*2)
かって、ストレッサーが生理反応を引き起こすかどうかは、そのストレッサーをどのように認知するか次第であると考えられていました。1990年代半ばに、ジョセフ・ルドゥーという研究者が、感情脳(扁桃体)の研究により、認知にかかわらず、生理反応が自動的・反射的に起こるメカニズムを解明しました。これが「低位の道」です。認知によって起こる生理反応は「高位の道」と呼ばれています。
(*3)
上記ルドゥーの研究は、恐怖や不安といった感情は、思考よりも早く条件反射的に起こるということを証明しました。同じように、怒りや悲しみなどの感情の多くが、理性的な認知の結果ではなく、過去の感情記憶に基づいた条件反射的なものであることがわかりかけています。
このことから、家庭内暴力を引き起こす怒りの制御においては、「どう考えれば怒らないでいられるか?」だけではなく、「どうすれば条件反射的に怒らないようになれるか?」もしくは「怒った状態では、どうすれば怒りを制御できるのか?」を考える必要があります。ゴットマン教授は、このような観点で考え、そしてエムウェーブが家庭内暴力を抑制するのに効果的であると考えているのです。
科学技術の進歩によって、脳活動をリアルタイムで計測できるようになったことから、ある思考や感情といったものが、脳の「どの部分」で起きているのか、また、「いつ、どのように」起きているのかが分かるようになりました。これにより、思考や感情の神経メカニズムについての、より深い解明が進んでいます。
この分野は神経心理学と呼ばれており、近年アメリカで最も注目されている心理学の研究領域です。そして、この記事に見られるように、アメリカの最先端の心理専門家は、既に臨床現場において、この神経心理学の知見を取り入れており、エムウェーブを活用しているのです。