プロのメンタルコーチによるCoherence Plusセンサー活用ガイド

このページは20年以上のハートマス社製品の日本正規販売店であり、同じく20年以上のHRVバイオフィードバックの指導実績を持つメンタルコーチ・石井亘が執筆しています。

心拍変動(HRV)バイオフィードバックとは

心拍変動(HRV:Heart Rate Variability)とは、心臓の拍動と拍動の間隔が一定ではなく、わずかに揺らいでいることを指します。この揺らぎのパターンは自律神経の状態を反映しており、ストレスや感情の変化によってリアルタイムに変化します。

HRVバイオフィードバックとは、この揺らぎのパターンを機器を使って画面上に表示し、自分の自律神経の状態をリアルタイムで確認しながら呼吸を整えるトレーニング法です。


なぜ「見える化」が重要なのか

自律神経の状態は、主観的な感覚だけでは正確に把握することができません。「落ち着いているつもり」でも、心拍のパターンを測定すると乱れたままであることは珍しくありません。ヨガや呼吸法の経験がある方でも、バイオフィードバック機器で測定すると予想外のパターンが現れることがあります。

客観的なデータとして自分の状態を確認できることが、トレーニングとしての出発点になります。


なぜCoherence Plusセンサーなのか

現在、HRVバイオフィードバックに対応した製品は複数存在します。スマートフォンのカメラを使って測定できるアプリも増えています。ただし、評価の仕組みに大きな差があります。

Inner Balanceアプリは、コヒーレンスのレベルを赤・青・緑の3段階でリアルタイムに表示します。さらにチャレンジレベルが4段階あり、チャレンジレベル2で安定して緑を出せるようになったら、次はレベル3へと段階的に難易度を上げてトレーニングできます。

一般的なスマホカメラ計測のアプリでは、波形は表示されても、こうした段階的な評価の仕組みがありません。

専門家が見れば状態の良し悪しは分かりますが、一般の方が自分で判断することは難しいです。評価アルゴリズムの精度と段階的トレーニングの設計が、Inner Balanceが選ばれる主な理由です。


どんな人に効果が出やすいか

20年以上・1,000名を超える個人指導の経験から、HRVバイオフィードバックのトレーニングが特に効果を発揮するのは、急性ストレスやパフォーマンス不全を抱えた方です。

具体的には次のような状況が当てはまります。

試合や本番で実力が出せないアスリートや演奏家。商談・プレゼン・会議で緊張してうまく話せないビジネスパーソン。大事な手術の前に手が震える外科医。大切な対局の前にそわそわしてしまう囲碁・将棋棋士。

こうした方々が、継続的なトレーニングによって2ヶ月程度で驚くべき改善を示すケースを数多く見てきました。ただし、地道に続けられる人という条件がつきます。このトレーニングは認知行動療法的なアプローチであり、継続して実践できる方に向いています。

慢性的なうつ状態には時間がかかり、すぐに劇的な変化が出るわけではありません。


効果が出るまでの3段階

トレーニングを続けた方に共通して見られる変化の流れがあります。

第1段階:日常の変化 肩の力が抜ける、気持ちが楽になる、体の不調や緊張感が減る。本番ではなく、日常の質が先に変わります。

第2段階:呼吸の変化を感じ取る 自分がどんな状態の時にどんな呼吸になるかを、身体で理解し始めます。

第3段階:本番での応用 日常で培った感覚を、実際のパフォーマンス場面で活かせるようになります。

この3段階を経ることなく、最初から「本番で使おう」とすることはできません。トレーニングと本番応用は、別々のスキルです。


バイオフィードバックはトレーニングである

HRVバイオフィードバックは、セラピーではなく、トレーニングです。

セラピーであれば余計な刺激を取り除く方向になりますが、トレーニングであれば正確なフィードバックを受け取ることが優先されます。

音や光のフィードバックは消さずに使うことを推奨しています。正しいフィードバックを受けなければ、正しいトレーニングにはならないからです。


朝・昼・夜の3回練習が意味を持つ理由

多くの指導書では「自分の共鳴周波数を見つけてその呼吸を続けましょう」と書かれています。

しかし実際には、朝と夜では自律神経の状態が異なり、入りやすい呼吸のペースも変わります。起床直後は呼吸が浅く、就寝前のリラックスした状態では深くゆっくりとした呼吸がしやすくなります。

私の考えでは、一つの固定したペースを探すより、異なる状態で練習を重ねることで、どんな場面でも対応できる応用力が育まれます。

これが朝・昼・夜の3回練習を推奨する理由です。


よくある落とし穴

スコアを上げようとすると逆効果になります。

一緒にセッションを行うと8割の方がコヒーレンス状態に入れますが、機器を1ヶ月間貸し出して一人で練習してもらうと、2割程度の方が「うまくできなくなった」と報告してきます。原因のほとんどは呼吸リズムが速くなっていることです。スコアが出ないことへの焦りが、呼吸を速くしてしまいます。

もう一つの落とし穴は、意識の向けどころです。どこに意識を向けると自分が整いやすいかは人によって違います。これは教えてもらうものではなく、自分で見つけるものです。バイオフィードバック機器は、その答え探しを支援するツールです。


人は放っておくと元に戻る

1ヶ月間トレーニングを続けて良い状態になった方でも、半年後に再び測定すると、全く違う呼吸パターンになっていることがあります。一度覚えたと思っていても、意外と人は、自然にやりやすい呼吸法に変えてしまうものです。

定期的にチェックする習慣を持つことが、自律神経のコントロール力を維持するために有効です。これが機器を手元に置いておく意味の一つです。


呼吸法の習得と本番への応用は別物

ヨガや呼吸法の経験がある方は、バイオフィードバックのトレーニングに入りやすい傾向があります。しかし、そうした方の多くが「本番では呼吸法を全く使えていない」と話します。

呼吸の「やり方」を知っていることと、本番のプレッシャー下でそれを「使える」ことの間には、大きな隔たりがあります。

種目や状況に応じて本番の呼吸をどう設計するか。そこが指導の中核になります。


このページについて

このページは、株式会社フォーカスマネジメント代表・メンタルコーチの石井亘が執筆しています。

同社は2005年よりCoherence Plusセンサーをはじめとするハートマス社製品の日本正規販売店として、1,000名を超える個人と、200以上の大学・病院・企業への納入実績を持ち、サポートと教育を行ってきました。

また石井は、プロメンタルコーチとして20年以上にわたり、中高生や一般社会人だけでなく、プロゴルファー、オリンピックアスリート、音楽家、医師、公認会計士、経営者、研究者、囲碁・将棋棋士など、多種多様な分野のトップパフォーマーにHRVバイオフィードバックを用いた指導を行ってきました。個人指導の累計セッションは2万時間を超えています。

2005年に、日本大学大学院総合社会情報研究科にて修士論文「実証的な生理心理学ストレスマネジメントに関するハートマス研究のレビューと短期的効果の部分追試」を執筆。ハートマス研究所設立(1991年)から2004年までに発表された学術論文を包括的にレビューし、日本の企業現場においてコヒーレンス技法の心理・生理的効果を実験で確認しました。

また2009年にはこう書房より『「ここ一番に強い自分」は科学的に作り出せる』を上梓。レゾナンス呼吸法を中心とした「本番で力を発揮するための考え方と技法」を、事例を交えて解説しています。

(現在は絶版、Amazonにて中古品が入手可能)。