イラク派遣兵はどうやって感情的混乱を乗り切ったか?(前半)

ジェイクは決して兵隊タイプの人間ではありませんでした。ジェイクがこれまで最も戦闘地域に近づいたのは、州の司法試験を受けたときであり、スカッシュコートで少し本気になったときぐらいです。法科大学院を修了後、就職した法律事務所が彼に許可した、唯一の職場外収入を得る方法は、陸軍の予備役として登録することでした。そこで彼は陸軍予備役に登録したのです。それは、奨学金を返済するため、上乗せの収入源としてのもので、それ以外の何ものでもありませんでした。しかし、それが間違いだったのです。

ジェイクに会ったのは、イラクに派兵されることになったという通知をジェイクが受け取ったからです。炭素菌やその他の生物兵器に対抗するために投与されたワクチンの反応なども混じり、ジェイクは感情的な混乱に陥ってしまい、手がつけられなくなったジェイクの叔母と母親が、ジェイクのためにストレスマネジメントに関するカウンセリングを提供するように私に依頼があったのです。

ジェイクと初めて話したとき、ジェイクの考えや感情は空回りしていました。家族や恋人に1年以上も別れを告げなければならない、もしかしたら一生の別れになるかもしれない。イラクに向かう飛行機内の閉所恐怖…。炭素菌ワクチンや中東の正体不明の疾病による神経や脳の損傷…。更なる注射やワクチンへの恐怖感…。

ジェイクの最大の恐怖は、肉体的な死を考えたからではありません。イラクから帰還した仲間の兵士たちが、感情能力がなくなったり、感情が空になったりしてしまったのを見たことから生まれていたのです。

ジェイクは不安から不眠になりました。不眠が彼の考え方に影響を与え、彼が最も恐れていたものを作りだしたのです。自分の感情世界は自分でコントロールできるという考えをすっかり失ってしまったのです。

そこで、ハートマスメソッドのコーチングを導入したのです。私はジェイクに、最近起こした自動車事故の記憶を思い出すように依頼しました。するとジェイクは、アドレナリンが溢れでるような感覚を経験しました。次に私は、片腕で恋人を抱き寄せる感覚をイメージするように依頼したのです。ジェイクは、部屋の中では何も変わっていないにも関わらず、平和が訪れた感覚を持ったのでした。ジェイクはこのエクササイズによって、彼の感情的経験の源は、彼がどのように注意集中するかによって生み出されるものであり、実際の状況によって生み出されるものではないということを発見して感動していました。

コーチングで最初に私たちが取り組んだことは、心臓を意識しながら、彼の注意集中を、「恐怖」から「目的」へと移せるように支援することでした。狂ってしまうかもしれないという「恐怖」を、感情中枢を維持したり、他の人に役に立ったりするための「目的」に移せるようになることは、すぐに大きな効果があったのです。運転しているとき、避けなければいけないものについてばかり考えていると、結局はそれに衝突してしまいます。そうではなく、どこに行きたいのかを考えるべきなのです。ハートマスのツールは、ジェイクがそれを学ぶことを後押ししました。

大きな突破口が、私たちの会話から生まれました。私はこう尋ねました。「ねえジェイク、あなたは恋人と理由もなく別れたいと思う?ただし、彼女は、今現在のあなたが最も大切にしている人生の一部分であるということが前提だけども…」。ジェイクは「もちろんそんなはずはないよ!」とジェイクは私をみながら笑いました。そこで「それではなぜあなたは、自分自身の平和や、自分はできるっていう感覚と別れて、その代わりに恐怖と結婚したいと思うの?」

ジェイクは自分の状況についての新しい物の見方を始めました。フリーズフレーム技法(*1)によってジェイクの注意は変化し、冷静で、効率的で、家族や仲間の兵士たちにも役立ち支援できるようになったのです。非常にありがちですが、ジェイクはストレスを抱えたときにはいつも、家族や恋人に話しをすることで解消してきました。インスタントメッセンジャーやEメールが、ジェイクの最も親しい友達だったのです。イラクでは、これらのどれも使うことができません。そしてそれも、彼にとっては拷問のように感じられたようです。

コーチングをとおして、ジェイクはそのような考え方を再構築し、そして、イラクへ派兵されるといった状況は、目標を達成するために自分の奥底に眠る資源や、彼のまわりの人間関係を奪うものではなく、それらを高めてくれる内的安全性を探りだせるように彼を導くのに好都合な状況であると捉えるようになり始めたのです。ハートマス技法によって、私たちが頼るべき心臓が、ジェイクにメッセージを与え続けたのです。

また、ハートマスの唱える心拍一貫性(心臓コヒーレンス)の科学について学んだことが、ジェイク自身が、一緒にイラクに派遣される兵士たちに対して、伝染する混乱の犠牲となるのではなく、一貫性のある肯定的な影響を与えられるのだという英知をジェイクに与えたのです。

感謝することが免疫機能を高めるというハートマス研究は、ジェイクの感情をマネジメントする能力が、イラク滞在中も健康を維持する能力、また、ジェイクとチーム全員の安全を確保するベターな決断ができる能力と繋がっていることへの気づきを促し、これが現実的な安全感覚をジェイクにもたらしました。

力を与えられたという新しい感覚の全てが、派兵に対する考え方のアプローチを、「恐怖」から、どんな新しい挑戦目標や状況において、得点を取ることは自分だけでなく周りに対しても価値をもたらすものであるという「自発的なゲーム」へと変容させたのです。派遣の前日、ジェイクは自らの新しく発見した強みを証言するものとして、次のメールを送ってくれました。

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<ジェイクからのメール>
ハートマスのツールは、私人生、そして私の周りの人たちの人生に対して、本当に大きな影響を与えました。イラクへの派遣が決定した二ヶ月前、私は自分の人生で最も大切な資産を失っていました。それは私の心と精神です。

明日、私は派遣されますが、コーチが私に提供してくれたハートマスツール(エムウェーブ)のおかげで、私は心と精神の両方を取り戻し、私の周りの人たちを支援できるようになりました。

私は世界にどうしても知ってもらいたいことがあります。それは陸軍には少なくても一人の人間が、感謝の気持ちを送り出し(*2)、その周りの人たちをサポートするために全力を尽くしているということです。こう考えられるようになったのもハートマスのおかげなのです。
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ジェイクとのコーチングは、私にとっても貴重な経験となりました。私自身がハートマスにたどり着いたのも、戦争地域における生活によるPTSDが原因でした。ハートマスのツールは、私がジェイクを癒し、戦争のトラウマ的ストレスに対処するための効果的なツールを提供してくれたのです。

(*1)
フリーズフレーム技法とは、コヒーレンス法を応用したハートマス技法の1つです。

(*2)
感謝・いたわり・愛情といった気持ちが人間を強くします。感情をコントロールし、ストレスに対処するには、「まわりに感謝すること」が一番の方法であることを、ハートマス(エムウェーブ)はジェイクに教えたのです。なぜなら、エムウェーブを使うときに、心から感謝できているとき、本当に簡単に緑(高コヒーレンス)を達成できることがわかるからです。

■ 補足

力強くイラクへ旅立ったジェイクは、1年後、無事に帰国し、現在はニューヨーク州の弁護士事務所で働いているそうです。

そのジェイクからのレターがハートマスに届きました。

次回は、ジェイクが戦場でどのようにハートマス技法で困難を乗り越えたか、そして、帰国後に待っていた様々なストレッサーに、どのように対処したかについて紹介したいと思います。

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