心臓エネルギーのコミュニケーション

私たちのほとんどは、通常、言語の意味をとおして、周りの人とのコミュニケーション(情報伝達)を行っていると考えています。

なかには、実際の情報伝達の80%以上が、言語以外の情報(主に視覚や聴覚)に頼っているというコミュニケーション心理学の研究調査を知っている人もいるでしょう。その研究からは、言葉の内容よりもむしろ、顔の表情や話し方のトーンなどが、情報伝達の大半を占めていることが判明しています。

しかし本当にそれだけでしょうか?他者との情報伝達に介在する「他の何か」は存在しないのでしょうか?

本号では、危篤(無意識)状態にあるホスピス患者と、その介護者との情報伝達に関する研究調査を紹介したいと思います。この研究調査は、言語・視覚・聴覚以外の情報伝達の可能性を示唆するものであり、ハートマス研究所が提唱する「心臓のメッセージ」を裏づけるものです。

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医療従事者や家族から寄せられる数多くの報告からも、愛情にあふれ、いたわり深い他者の存在が、死を迎えようと危篤状態に陥った人たちにとっても、役に立ち、意味のあることであることが示唆されています。しかし、実際に、そのような他者の存在が、いかなる情報伝達に基づいて行われているのかについての研究はほとんどありませんでした。

死への過程、そして、その過程にある人々を支援策についての理解を深めるために、トランスパーソナル心理大学院(The Institute of Transpersonal Psychology、カリフォルニア州)の大学院生であるジャン・デニーは、修士論文としての研究を開始しました。彼女の研究目的は、「共感的他者の存在」が、死を目前とした危篤状態にある人々の精神的、感情的、身体的状態にどのような影響を与えるのかを調べることでした。また同時に、患者を支える介護者への同じような影響も調査したのです。

「電磁エネルギーに基づく情報伝達(*1)」における心臓の役割に関するハートマス研究に触発され、デニーはまず次のような仮説を立てました。

『危篤状態のような言語的に情報伝達が不可能である状態においても、愛情や共感といった非言語的な情報伝達は、患者や介護者の心臓から発せられる電磁エネルギーによって可能になる』

デニーは、このような情報伝達の身体的影響を実際に測定するために、エムウェーブを使い、ホスピス患者や、患者につきそう愛情あふれるボランティアの心拍リズムを測定したのです。

研究を進めるうちに、デニーは、ホスピス患者は周りにいる人たちにとても感受性が高いようにみえるということに気づきました。介護者の心拍パターン、変化、アクションと合致する心拍リズムのパターンや変化が、ホスピス患者にも認められたのです。

測定分析が行われた24のケースのうち、23のケースにおいて、介護者とホスピス患者の心拍リズムの同時変化が起きたという証拠が見つかりました。脳をひどく損傷した患者においてさえ、緊密でいたわり深い関係が、患者の心拍パターンに強い影響を与えるという証拠が見つかったのです。

あるホスピス患者において、その夫がそばにいるときと、ボランティアの介護者がそばにいるときとでは、その患者の心拍リズムの安定性(ハートマスが提唱する心拍コヒーレンス)が9倍も違っていたという事実が、この証拠を強く裏づけています。

さらに、ホスピスのある介護者は、あるひとりの患者と、とても親密な関係を築いていましたが、その介護者がそばにいるときと、他の介護者がそばにいるときとでは、その患者の心拍コヒーレンスは大きな違いを見せたのです。興味深いのは、この介護者がその患者を知ったのは、危篤状態になったあとだったのです。

ホスピス患者たちは、介護者が体を触ってあげたり、祈ったり、瞑想したりすることでも、明らかな心拍リズムの変化を示していました。

この研究調査が示唆するのは、言語による情報伝達がもはや不可能であるような命の最終局面においても、心臓のエネルギーに基づく情報伝達が、患者と介護をする人たちの間に起こっているということです。

デニーは調査研究を振り返り、命の最終局面にいるような人たちがどのように感じ、反応するのかについての理解を深めたことで、その局面における「触れあい」といったものがずっと重要で、豊かになった、と結論づけています。

(*1)
心電図からも分かるとおり、心拍活動は電気活動です。電気活動は磁界を作るため、心拍活動は電磁エネルギーを生みだします。ハートマスの研究からは、心臓の電磁エネルギーが、自分の脳波(脳の電気活動)に影響を及ぼすだけでなく、4メートル程度の距離にいる他人にも影響を及ぼすことが分かっています。

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